義援金募集
FC2「東北地方太平洋沖地震」義援金募集につきまして
プロフィール

しげち

Author:しげち

カテゴリー

【コメディ・トゥナイト!】荒尾様とゆかいな仲間たち

即興小説で書いたものを。
だいたい荒尾様。
好き勝手に捏造してます。
年明けうどん
お題:幸福なうどん



「年越し蕎麦の代わりに、西方では年明けうどんというのがあるそうですね、荒尾様」

 薬問屋を出て自由になったはずの丁吉は、ときおり姿を見せてはなんだかんだと問題を持ち込んだり、布袋屋や川端家の騒動に巻き込まれたりしている。
 年の瀬の大掃除を終えた時分にやってきて、挨拶がてらそんな話を始めた。

「で、天神さまの境内で、その年明けうどんを食わせる屋台ができてるらしいんですよ。年が明けたら行ってみちゃどうです」

 そんなことを言っていたなと思い出したのが、一月二日の朝だった。
 どうせ初詣にも行くつもりだったから、と自身に言い訳をしながら境内を覗くと、「年明けうどん」の紅白で染め抜いた幟が見えた。
 その下に、見覚えある男の姿が。

「荒尾様、いらしてくださつもたんですね」
「お前の店だったか」
「えへへ、実はそうです」
「まったく…それならそうと言えばいいものを」
「丁吉の作ったうどんなんか食べられるか、なんて金吉には言われまして」
「ちゃんと旨いんだろうな」
「そりゃもう」
「では一杯もらおうか」

 縁台に腰掛け茶を啜っていると、すぐに器が出てきた。
 さすがに早い。

「丁吉、なんだこの薄紅のうどんは」
「ああ、せっかく新年なんですから、おめでたい方がいいでしょう? 梅で色をつけてあるんですよ」
「ほほう…幸福なうどんというわけだな」
「その通り! 荒尾様はお目が高い」
「俺を褒めるなと何度言えばわかる」
「だって褒めるしかないでしょうこれは」

 まったく、と言いながら江戸のものとは違う西方の味を楽しんだ。



別れの接吻
お題:誰かと真実 必須要素:「ひょえー」


「最後に、別れの接吻を」
「もちろんです」

 近い声に反射的に顔を向けると、唇に柔らかい感覚。
 次の瞬間。

「ひょぇー!」

 澤野屋を名乗っていた男が悲鳴をあげて離れた。
 ということは今のは奴の唇か。
 頭の隅で冷静に思う。

「お前じゃない!」

 怒鳴ってから花嫁の遺体に向き合う。

「My darling…」

 白い布に覆われた哀れな姿を見下ろす。
 最高の夫に嫁ぐことが決まっていたのに、巡り会うこともないまま病で儚くなってしまうとは、なんという悲劇だろうか。

「ちょっと待った!」

 彼女と自分の唇の間に何かが差し込まれ、止まりきれずにぶつかる。

「なんだお前は!」
「てゆかなんで平気なんですか! い、いま、私と、きききき、キスしたんですよ!」

 澤野屋が騒いでいる。
 正直どうでもいい。

「知るか! ただの事故だ」
「ですがね!」
「初めてのキスというわけでもあるまい」
「はっ、ち、違いますけど、それでもですねぇ!」
「荒尾様! そんな奴と接吻するくらいならワシと…!」
「お前でもないわ!」

 なにを勘違いしたのか、とち狂った家臣の侍をしばき、澤野屋に向き直る。

「なぜ俺の邪魔ばかりする。返答の次第によっちゃただではすまさんぞ!」
「あの、ですねぇ! で、ですから、この娘は越後から来て、病で死んだんですよ!」
「越後か、聞いてる」
「伝染病なんですよ!」

 死を呼ぶ伝染病という言葉に参列していた人々が騒ぎ逃げ出す。
 ただ一人、その喪主を除いて。

「俺は今日越後から来た。伝染病など流行っていない!」

 頭脳明晰と自ら称する頭の回転の早さと、大戦を勝利に導いた判断力が、相手の誤魔化しをも見通す。
 しかし彼の頭脳をもってしても、目の前の花嫁の死体が本当は誰なのかという真実は、千里眼を持たない彼にはわからなかった。




嫁入り準備
お題:素朴なボーイ


 妻を娶りにいって、その代わりに今まで存在も知らなかった妹と廻り合い、新しい弟ができた。
 祝言はまだ先になるだろうが、新しい家族のことは歓迎したいし可愛い妹は快く送り出してやりたい。
 だから持参金をふんだんにつけると荒尾が言い出すのも自然な流れだった。
 しかしそれに難色を示したのは、意外なことに彼らの父である川端老人だった。

「あの子はわしの娘で、お前はわしの息子じゃ。子の祝言に持参金を持たせるのは父親であるわしの役目じゃ」
「ですが父上…」
「お前はあの子の身請けにすでに二千両を使っておろう。この父にすべて任せておけ」
「お言葉ながら父上、二千両のうち半分は戻ってきております。そのぶんをそっくりあの子に持たせても、私の懐はちっとも痛みません」
「だったらそれはお前の嫁取りに取っておけ。お前とてやがては妻を迎えるのであろう?」
「しかし…」
「わしとて老いぼれたとはいえそのくらいの余力はあるわ。それにな、子が子であるうちは羽の下に守ってやるのが親の務め。わしにその務めを果たさせてはくれまいか」

 そんなふうにこんこんと説かれると、息子である荒尾もそれ以上のことは言えなくなる。

「ではせめて、花嫁衣装は私が」
「お兄様、そんなことしてくれなくてもいいのよ。あたし、あなたが私のお兄様だってだけで嬉しいんですもの」

 つい最近廻り会ったばかりの可愛い妹に言われ、荒尾はとろけるような笑みを浮かべる。

「お美津、これくらいはさせてくれ。この二十年、俺はお前になにもしてやれなかった。父上への孝行はこれからでも叶うが、お前の一世一代の晴れの日を、どうか俺にも祝わせてくれ」

 手をとって熱心に説かれると、お美津は困ったように眉を寄せて、比呂さんに訊いてみます、と答えた。

「ぜひそうさせてくれ、お美津。俺はお前を、江戸一番、いや、この日の本一の花嫁として送り出してやりたい。なにしろそなたは、この荒尾正蔵の妹なのだからな」
「ええ、ありがとうございます、お兄様」

 誰に対しても素直で従順たれと育てられた娘は、にこりと花のような笑顔を見せた。



嫁取りと跡取り
お題:地獄の悪



「お前の弟が、兄が祝言を挙げていないのに自分が挙げるとは孝悌の道に悖ると申しています。ですから、あなたにも嫁を宛がってあげましょう」
「……ありがとうございます、母上」

 「宛がってあげる」とはいかにも業腹な言い様だが、相手は母である。
 血の繋がりはない。
 彼自身は覚えていないが、赤ん坊のころに水軍に浚われ、人買いに売られそうになっていたところを火付盗賊改の父が水軍を撃ち、引き取られたという。
 それを聞かされたのは養父母の間に弟が生まれた五つの時で、それ以来彼は荒尾家に身の置き所がない。
 父と母に最大限の敬意を払い、武士の鑑となるよう研鑽に励み、ついには大きな戦での勝利も収めたが、それでもこの母は彼を認めようとはしてくれない。
 父は何くれとなく気を使ってくれてはいるが、病がちの母には逆らおうとしない。

「嫁の都合はつけてあります。江戸の澤野屋という店が、万事整えてあるはず。そこで祝言を挙げてきなさい」
「はい」
「そしてそれをもって、廃嫡を受け入れること」
「……それは…」

 誰よりも強くたくましく成長し、明晰な頭脳と溢れるカリスマで部下たちの心を掴み、麗しい容貌で数多の女たちを恣に虜にする彼にさえも、母の心を和らげることはできなかった。
 むしろ、彼が名をあげ、地位を築いていくたびに忌々しいとますます冷たい仕打ちを受ける。

「そうでしょう、あなたは荒尾の本当の息子ではないのだから。あの子に譲りなさい。でなければ地獄の亡者にも劣る所業をすることになります」
「……はい。かしこまりました、母上」

 筋骨隆々の男が、身を屈めて深々と頭を下げ、老母に従う姿は滑稽でもあるかもしれない。
 それでも、この人は自分に家を与えここまで二十年間育ててくれた人なのだ。
 どれほど不遇を託っていたとしても、育ての母に対しての思慕の念は消えることはない。
 だから、彼女の言葉に従う。


「兄上、それではもうこれで荒尾家を出られるのですか」

 簡単な身支度を終えて家を出ようとする彼を、弟が追いすがった。

「それが母上の望みだ」
「いけません、兄上。あなたこそ荒尾家の嫡子ではありませんか」
「もう嫡子ではない。俺は廃嫡される」
「ですが長子です」
「ああ…だがいずれは。それにな、弟よ。俺はいやいや行くのではないぞ。俺が娶る花嫁は三界一の娘だと聞く。俺はその愛しい娘とともに、新しい家族になるつもりだ」
「ですが兄上」
「今生の分かれでもあるまい。そのような顔をするな。これからはお前が家長として、父上と母上を厭うてくれ」

 ことさらに明るく笑うと、弟が悲しげに頷いた。

「……わかりました、兄上」
「達者でな。俺は、父上と母上と、お前と家族で在れてよかったと思うぞ」
「私もです兄上…!」

 目元を潤ませる弟の肩を叩き、荒尾家を出る。
 二十年過ごした家との決別を胸の奥に仕舞いこみ、荒尾正蔵は歩き出した。



薄桃の傘
お題:わたしの好きな傘 必須要素:パスタ



 その日は二人の母の命日で、墓に参るというので、布袋屋の前で待ち合わせをした。
 朝からしとしとと細かい雨が降っていて、なかなかやみそうになかった。
 荒尾が父と店先をくぐると、帳簿をつけていた金吉がすばやく気づいて二人の方へ頭を下げた。

「お早うございます、川端様、荒尾様。若奥様はもうすぐいらっしゃいます」
「急ぐことはない。ここで待たせてもらおう」

 二人が腰を掛けると新しく雇われたらしい丁稚が茶を運んできた。

「そなた、名は?」
「捨吉といいます」
「なんだ、捨て子なのか?」
「はい」

 荒尾の問いに溌剌と答える子どもは十を少し越えた頃だろうか。

「ここに来て長いのか?」
「まだ一月でございます」
「そうか。楽しいか?」
「このお店は珍らかなものがたくさんあります。昨夜の夕食には、ぱすたという異国の食べ物も出ました」
「ほう、さすが布袋屋だな」

 そんな暇潰しの会話をしていると、お美津が奥から姿を見せた。

「父さん、兄さん、お待たせしました」

 再開したばかりのころのふわふわした振る舞いはまだ残っているが、布袋屋の若女将として日々店のことや読み書きを学び、算術を覚える彼女は、いつのまにかずいぶんしっかりした笑顔を浮かべるようになった。
 もともと荒尾の妹なのだ、素地は優秀なのだろう。
 それを生かすことができなかっただけで、今になって学べなかった分まで貪欲に吸収し、花開いているという印象だった。

「捨吉、傘を」
「はい」

 若女将に命じられて少年が奥へと走っていき、すぐに淡い桃色の傘を抱えて戻ってきた。
 普通の番傘と違って、珍妙な形をしている。

「お美津、それは傘か?」
「はい、兄さん。異人さんからいただいた、異国式の傘です」

 外に出て開いてみると、確かに形は番傘と同じようなものだった。

「この色、あたし大好きなんです」

 微笑む妹はまだあどけなさを残していて、荒尾は目を細めた。
 きっと一緒に育っていれば、こんなふうに傘のひとつで喜ぶ姿も、当たり前に見られたのだろうなと思い、そんな日々を父や妹と共にこれから少しでも取り戻していきたいと願った。




ガチョウの家族
お題:勇敢な奈落


 自分が養子だと知ったのは五歳のときだった。
 ちょうどその前の年、養母に息子が生まれた。
 待望の男の子に歓喜した母は、順調に育つ弟を抱いて、養父に廃嫡を何度も訴えた。

「この子が荒尾家の嫡男になるべきです」

 そう言いながら弟のあどけない顔を覗き込み笑み崩れる母は、見たことがない人のように思えた。
 弟が生まれたから母は変わったのだろうか。
 それとも自分が悪いのだろうか。
 幼心に、きっと長男として頼りないと思われているのだろうと思い、それまで以上に剣の稽古にも勉学にも励んだ。
 しかし父は、そんな私をどこか悲しそうに見るだけだった。

「私はふさわしくありませんか」
「そうは言っていない」
「足りない部分があれば励みます、ですから…」
「そうではないのだ」

 深いため息をついた父は、部屋へ来るように言われた。

「お前は、私たちの子ではない」
「…誰か、親戚からの養子でしょうか」

 跡取りのいない武家はお家取り潰しの憂き目に遭うことは、幼いながらも知っていた。
 次男や三男を親類の家に後継ぎとして養子に出すことがあるというのも。
 しかし父の返事は違った。

「違う。お前の親は、誰も知らない」

 この瞬間を、いまでも忘れない。
 足元がすべて崩れ落ちていく感覚。
 信じたものが消えてしまう。

「赤ん坊のお前の身元の手がかりは、これだけだった」

 差し出されたお守りには、七羽のガチョウの家族の紋が入っていた。

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

FC2カウンター