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しげち

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【フランケンシュタイン】即興小説五つ

即興小説で書いたのを五つ。
短いものばかりです。
だいたいは坊っちゃんとルンゲ。

アンリと出会う一月前
お題:興奮した独裁者 必須要素:背後で爆発音


「おかしい、電圧が低いままだ」
「発電機をみてきましょうか」
「たのむ」

主人に言われて、ルンゲは急いで研究所の発電室へ向かった。
この第一師団兵器研究所には、尋常ではない大容量の発電機が駆動している。
雷に匹敵する電流を生み出せる機械は、扱えるものが少ない。
ルンゲは主人の研究の必要から、その扱いも熟知している。
すぐに損傷箇所を見つけて応急処置をした。
これでしばらくは問題なく使えるはずだ。
なるべくすぐに新しい部品と交換しなければならない。
そう思いながら研究室に戻ろうと腰を上げたとき、背後で爆発音がした。

「坊っちゃん!?」

研究室の方向だ。
慌てて駆け出す。

「今度はなんなんだ!」

研究室から、研究員や主人が転がり出てくる。

「坊っちゃん、大丈夫ですか?」
「ああ、僕は問題ない」
「いったい何が…」
「材料に不純物が混じっていたようだ。薬品と反応してこの有り様だ。だから実験材料のチェックは念入りにやれといつも言ってるだろう!」

いらいらした様子で、主人が近くの研究員を怒鳴り付ける。

「す、すみません、大尉殿…!」
「お怪我はありませんか?」
「はっ、い、いえ、あの…」

ルンゲが問いかけるがしどろもどろの返事しかない。
この研究所の責任者であるヴィクター・フランケンシュタイン大尉に叱られるというのは、彼らにとってかなり恐ろしいことらしい。
逆らえば一番危険な戦場に送られ、ここに帰ってこれるのは実験材料としてでしかない、などという噂がまことしやかに流れている。
どこまで本気で信じているかはわからないが、先程のように彼は興奮すると周りが見えなくなるのは確かだった。
まるで暴君のように振る舞う主人を諫めるのも執事の務めと、何度か言ってはいるのだが、最近は特に暖簾に腕押しの感が否めない。
研究が行き詰まりかけているからだろう、とルンゲは思う。
死体の再利用としての研究は順調だ。
しかし、主人の本当の研究テーマ、生命の創造と死者蘇生は、難航している。
なんとか打開策を考えなければ、と思いながら、ルンゲは爆発で散らかった部屋を片付けようと研究室に入っていった。




犬と音楽
お題:知らぬ間の挫折 必須要素:ヘッドホン


 外界の音をすべて遮断する。
 音楽をかけながら本を読んでいると、不意に近くに人の気配を感じた。

「ルンゲ!」

 あげかけてた悲鳴を飲み込んで、顔のすぐ横にいる人物をなじる。

「何を聞いてらっしゃるんですか、ってさっきからお訊きしていましたのに」

 ヴィクターのヘッドホンに自分も耳をくっつけていたルンゲが、不満そうに唇を尖らせた。

「なんでもいいだろ」
「…いいですけど」

 ああ、これは拗ねている。

「なんでそんなに知りたいんだ」
「だって坊っちゃんのことですもの。なんでも知りたいです」

 こいつはこういう発言がいちいち主人の心臓を跳ねさせていると気づいているのか。
 自身に気づかせない努力はもうとうの昔に挫折して放棄したというのに、こいつはまったく察していないらしい。
 試されている気がするが、そろそろ限界かもしれない。

「…だったら、ここに耳をつけるんじゃなく、もっとほかにやり方があるだろ」

 溜め息と共に言うと、ルンゲがはっきりと頬を膨らませた。

「何度もお声をお掛けしました」
「読書中だ、邪魔するな」
「教えてくださってもいいでしょう」
「あとで聞かせてやるから、あっちにいってろ」

 しっし、とことさらに邪険にすると、しばらくヴィクターを見下ろして膨れていたが、やがてしゅんと肩を落として台所の方へといってしまった。
 お尻の辺りに垂れた犬の尻尾が見える気がして、ヴィクターは何を考えているんだと自身の発想に呆れた。



戦場の命
お題:女の借金 必須要素:一人称



 いつものように、坊っちゃんが指揮をとって、死者蘇生の実験をしようとしているときでした。
 実験に使う死体の中に、ひとつだけ女性のものがありました。
 なんでも、戦場で兵士を相手にしていた女が戦闘に巻き込まれたのだろうという話でした。
 その女性の体を器具に縛り付けたとき、電気も流していないのに急に咳き込み、目を開けたのです。

「大尉殿!」
「どうした」
「この女、生きてます!」
「なんだと!? 実験中止だ!」

 慌てて駆け寄り、坊っちゃんが彼女を調べます。
 こういうことは、ごく稀ではありますが起こります。
 死んだと思っていても気絶しているだけだったり、仮死状態にあるだけだったり。
 彼女で四例目で、すぐに彼女を医務室へ運び、そこで回復を待ちました。
 その日の実験を終えて坊っちゃんに従って医務室へ行くと、手当てを受けた彼女が起き上がったところでした。
 彼女はまだ二十代にはならないだろうという若い娘で、本当に兵士たち相手に春を売っていたのなら、なんと嘆かわしいことだろうと、私はその時に思いました。

「あの、ここは…?」
「イギリス・オランダ連合軍の研究所だ。君は?」
「あの…あたし…」
「名前は?」
「…カトリーヌ」
「カトリーヌ。君の故郷は?」
「故郷なんて…ないです」

 娘はうつむき、唇を噛み締めました。

「兵士たちの相手をしていたと聞く。まだ続けたいか?」
「そんな、まさか! 望んでやったことなんて一度もない! …でも、そうしないと、借金があるから」
「そうか」

 坊っちゃんが呟くように頷きます。

「だが君はもう死んだことになっているんじゃないのか? ここには普通は死体しか来ない」

 娘が小さく息を飲みました。

「それならもう借金とりに追われることもないのではないか?」
「…いえ、あたしが生きてると知ったら、きっと旦那様は地のはてまでも追ってくるわ」
「それはいけないな…せっかく戦場で拾った命だ。よし、僕が君の行く末に責任を持とう」
「あなたが…?」
「僕はフランケンシュタイン大尉。ここの責任者だ。ここにいる限り、誰にも危害を加えさせたりしない。ゆくゆくはどこか遠くの町に君を逃がそう。なんなら新大陸でも」

 海を越えた新大陸は、さきごろ宗主国イギリスの支配を脱して独立を宣言しました。
 どんな凶状持ちでも、過去を忘れて土地をもち農場を経営しているとも聞きます。
 きっとそこなら、借金で首が回らなくなった彼女も追手に苦しむことはないかもしれません。

「でも…」
「僕たちは生命の創造を研究している。その僕たちが命を見捨てることなど、あってはならない」

 坊っちゃんが自分自身に言い聞かせるように呟きました。



執事の妹
お題:彼女の死


 あれは僕が大学を出るころだったと思う。
 夜中にふと目が覚めて、水を飲もうと厨房に向かった。
 もう寝静まっているはずの廊下に、明かりが漏れていた。
 壁の蝋燭もとうに消されているはずの窓のない廊下に、ほんのりと人口の光が漂っている。
 どうしたのだろうと明かりの元を追った。
 その先はこの家のもう一人の住人、執事の部屋だった。
 扉の下の隙間から漏れる明かりに、どうしたものかと考え、扉に耳をつけてみる。
 執事といえどもプライベートはあるはずなので、主人だろうとむやみに立ち入るべきではないことは十分に承知しているが、それでも気になった。
 こんな遅くまで、彼が起きているということのほうが珍しい。
 部屋の中から、わずかにすすり泣く声がした。
 う、う、と押し殺しきれない嗚咽がこぼれているのだろう。
 静かに肩を震わせて泣く男だ。
 子どものころは、無茶をする僕のせいで何度泣かせたことだろうか。
 けれど最近は、執事の泣き顔を見ることなんてほとんどなくなった。
 別な意味で泣かせることは増えたかもしれないが、こんな悲しげな泣き声はずいぶん久しぶりだ。
 たまらなくなって扉を開けた。
 いくらなんでも越権行為だとはわかっていたが、自分を止められなかった。

「…坊ちゃん…!」

 突然入ってきた僕の姿に大きく目を見開いている。

「何を泣いている」
「……妹が」

 執事の手元には、実家から送られてきた手紙があった。
 彼の妹は、伯父のところでメイドをしていると聞いたことがある。

「…急な、病で。先週」
「………ジュネーブに帰るか」

 涙に濡れた睫をぱちりと瞬かせ、執事が戸惑うように瞳を揺らした。

「…坊ちゃん、も?」
「僕は帰らない。僕は一人でも平気だ。お前だけで行ってこい」

 今から急いで帰れば、葬儀に間に合うかもしれない。
 それとももう終わっているのかもしれない。

「……いいえ」

 涙を拭った彼が首を振った。

「私の役目は坊ちゃんのお側にいること。決して離れたりはいたしません」

 ずるい主人だと自分でも思う。
 僕がジュネーブに帰るといえば、ルンゲはついてくる。
 そして妹の墓に参ることもできる。
 けれど、僕がそれを望まないから、彼は家族の葬儀にも出席できない。
 それでも、彼は僕のわがままを許容する、それがどんなものであっても。
 それでいいのか、と訊くこともできない僕は、ただ彼の頬を流れ落ちる一筋の涙を、指先で拭うことしかできなかった。



緑尽くし
お題:緑の食事




「…なに、これ」

 出てきた皿にアンリは絶句した。
 いつものように夕食の席についたアンリとヴィクターの前に置かれたのは、緑色のスープにグリーンサラダ、そして緑色のパスタ。

「ほうれん草のスープに、小松菜を練り込んだパスタのボンゴレビアンコです、アンリ様」

 執事のルンゲがにこりと微笑んで答えた。

「…ヴィクター、君なにしたんだ」
「なんで僕が」
「ルンゲを怒らせたんだろう」
「なにもしてない!」

 向かいに座るヴィクターにこっそり訊ねるが、どうやら彼にも心当たりはないらしい。

「どういうつもりだ、ルンゲ!」
「だって坊っちゃん、この一週間、なんだかんだとおっしゃってはお野菜を残してますよね?」

 ぎくり、とヴィクターが肩を揺らした。
 ルンゲに気づかれないように処理していたのが、全部ばれていたらしい。

「お野菜は体にいいんですから、ぜひ召し上がってください。ちゃんと美味しく作ってありますからね」

 にこり、とルンゲがワインを注ぎながら主人に笑いかけた。

「…お前の作る料理がうまいのは知ってる」

 降参、というように軽く手をあげてから、ヴィクターが、食器に手を伸ばした。

「アンリ様、巻き込んで申し訳ないです。明日はお肉も出しますね」
「気遣いありがとう、ルンゲ」

 アンリもルンゲに微笑みかけてから、スプーンを手に取った。


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