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しげち

Author:しげち

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【フランケンシュタイン】ジャックとイゴール

別んとこに載せてたものをこちらにも再掲。

二人の出会いを妄想。
柿ジャックと中ジャックでかなり違う感じに。
イゴールの本名はエリック推奨。
だってあの仮面がファントムみたいじゃない。
独りぼっち協定(中ジャック)



 何年かに一度、オークションが開かれる。
 一般には知られない、ヤミと呼ばれるそれは、合法違法問わずありとあらゆる珍しい文物を扱っている。
 そこで扱われる商品にはもちろん、人間も含まれていた。
 ジャックは父親に連れられて、オークション会場にいた。
 今日は人間を主に売り買いする日だそうで、セキュリティもものものしい。
 なにか目当てがあるのかと訊けば、売れ残った商品を格安で譲り受けて、闘技場で使うのだという。
 闘技場で戦う男たちに、金さえ払えば売春まがいのことまで許す女性ダンサーたち。
 そういった人材は、主にこういう場所から供給されているらしい。
 最初の方こそ、異様な空気にわくわくしていたジャックだったが、だんだんに飽きてきた。
 開始早々に席を立ち、勝手にふらふらと出歩く。
 大人の腰ほどもない小柄なジャックの姿は案外見咎められることなく会場の裏手に潜り込めた。
 舞台裏にはオークションに出されるのを待っている、あるいはすでに売約がついた人間の入った檻がいくつも並んでいた。
 若い男女が多く、中にはジャックとそう年の変わらない子供も混じっている。
 食い詰めて人買いに売られた者や、中には浚われてきた者も混じっていると聞く。
 商品だからだろう、全員小綺麗にして、服も質素ながら清潔なものを身につけている。
 いくつかの子供の檻を覗き込むが、みな怯えたように奥の方に縮こまっている。
 ふいに視線を感じた気がして振り返った。

「………お前、誰だ」

 小さな檻の中に、ほっそりした少年が座っていた。
 子供とはいえ、ジャックよりは年上だろう。
 軽くあぐらをくみ、まっすぐに背を伸ばしてジャックを見つめている。
 綺麗な少年だった。
 色が白く、ギリシャ彫刻のように整った顔立ちと、特徴的な大きな目が強い光をたたえている。
 ジャックが近づいても、少年は視線を逸らすことなく、じっと見返した。

「俺は、ジャック。お前は?」
「…………エリック、と呼ばれている」

 少年もほかのものたちと同じように身綺麗にしているが、顔にはいくらか汚れがついている。
 ジャックには何かわからないもので汚された顔に気づいた少年が、むき出しの腕でぐいと顔を拭った。

「……お前、逃げたくないのか?」
「逃げたいさ。逃げられるものなら」
「…ここのオークション、売れ残った奴は俺の親父が買い取るんだ。だから…」
「無理だ」

 ジャックの言葉を、少年がぴしゃりと遮る。

「もう買う奴が決まってる。俺は一生、飼われるんだ」

 少年の瞳に暗い色が混じる。
 伏せた睫が頬に小さな影を落とした。

「……じゃぁ、俺が逃がしてやる」
「…は?」
「うちにはいろんな奴がいる、一人くらい紛れ込める」
「なに言ってる」
「鍵なら開けてやる。俺、鍵開け得意なんだ」
「……末恐ろしいガキだな」

 少年が吐き捨てる。
 ジャックは眉をしかめた。

「ガキって言うな」
「…ほんとに、逃げられるのか」
「………俺を信じろ」
「いま会ったばっかりのお前を信じろって言われてもな…」

 口では憎まれ口をたたいているが、目が迷っている。
 身近に大人が多い環境で生きているジャックは、子供とはいえ人の嘘の見抜き方も人心の操り方もある程度は心得ている。

「約束する。俺がお前を逃がしてやる。代わりに一生俺の部下になれ」
「……一生?」
「ああ」
「………お前の部下?」
「そうだ」
「……………本当に、ここから出られるんだな」
「しつこいぞ」

 しばし、じっと見合う。

「……負けたよ」

 少年が諦めたように肩をすくめた。

「どっかのジジィに一生飼われるよりはよっぽどましだ」
「よし、決まりだ。少しだけ待ってろ」

 にやりとしてジャックはポケットから針金を取り出すと、ものの数分で開けてしまった。

「…ほんとに開けられるんだな」
「言ったじゃないか」
「………ま、いいけど」

 檻から出た少年がゆっくりと立ち上がる。
 少しだけ足が震えている。

「で、ジャック。どこへ行く」
「ついてきて」

 ジャックが顎をしゃくると、少年はそのままついてきた。
 オークション会場を出るのはさほど大変ではなかった。
 さすがに外で少年の格好は目立つので、ジャックの上着を貸してやるがひょろりとした腕が袖から飛び出ているのはなんとも不格好だった。
 闘技場に帰ると、先月死んだ道化師の部屋に連れ込んだ。

「これを着てたのはイゴールってやつだった。お前よりは大きかったけど、ピエロなんだし大丈夫だろう」
「……ピエロって何だ」
「…知らないのか!?」

 道化服を持ったまま、ジャックは目を丸くした。

「顔を真っ白に塗って、ふざけたりする奴だよ、サーカスとかで見たことない?」
「……ない」
「………お前、いつからあんなふうに捕まってたんだ?」
「…………もう、だいぶ長いこと」

 ふーん、と鼻を鳴らして、ジャックは服を少年に押しつけた。

「とにかく、ピエロの格好してれば怪しまれない」
「…わかった」

 素直に頷いた少年が、だぼだぼの服を着ていく。
 ジャックは手近な椅子に腰掛けて、その様子を眺めた。

「……どう?」
「…似合わない」

 両手を広げて見せる少年に投げかけると、少年は唇をとがらせた。
 道化服と、整った容姿とがちぐはぐな印象になる。

「そうだ、仮面があった。とりあえずそれをつけてればいい」

 化粧台の引き出しを漁って、いくつか仮面を見つける。
 前任のイゴールは衣装や仮面のバリエーションも多く持っていた。
 その中でももっともシンプルなものを選んで手渡すと、困った顔をした。

「仮面だよ、顔につけるの」
「…うん」

 ジャックが手を貸してやって、なんとか仮面をつけた。
 そうすると、先月死んだばかりの道化師によく似ていた。

「あいつはもっと背が高くて太ってたけどさ。中にもうちょっと着ればわかんないよ」
「…そうか」

 ぶかぶかの服の上からでもわかる、ひょろりとした肢体が頼りない。

「あとで親父に…あ、いけない。俺戻らなきゃ。いいか、俺が戻ってくるまで外に出るなよ」
「わかった」

 少年がこくりと頷いたのを確認して、ジャックはオークション会場にまだいるはずの父親のところへ戻ろうと、急いで駆け出した。




快楽至上主義者たち(柿ジャック)



 町が騒然としている。
 どこかざわつく町の気配に、闘技場を経営するジャックは薄い笑みを唇に張り付けたまま、何かを探るように鼻先を空に向けた。
 月のない夜、雲に遮られて星も見えない。
 日の落ちた時刻にしては珍しく、人々がざわついている。
 浮き足立っているというわけではない。
 どちらかといえば、怯えている。
 と思っていたら、たいまつを持った数人の警備隊と行き合った。
 腰には剣を帯び物々しい。

「……なぁ、なんかあったのか?」

 ちょうど店の外にでていた酒場の主人を掴まえて訊くと、一瞬怯えた顔をした彼は、顔見知りのジャックだと気づいて表情をゆるめ、声を潜めた。

「殺しらしい」
「そんなの別に珍しくもないだろ」
「それがさ…」

 街灯の明かりも届かないような裏路地で、死体が見つかった。
 それだけならよくある話だが、殺され方がひどいらしい。

「全身血塗れなんだけど、切り刻まれてたんだってよ。かたっぽの目玉は抉り出されてて、顔も誰だか見分けつかないくらいに切られてるって話だ」
「犯人は?」
「逃げた姿が見られてるらしい。まだ三十にはならない男で、色白の痩せ型で服と髪は黒。返り血を浴びているはずだから、そういう奴が来たらすぐに知らせろ、だとさ」
「この辺に逃げ込んでるのか」
「こっちの方に逃げたって話だ」
「物騒だねぇ」

 まったくだ、と頷いた酒場の店主は、あんたもさっさと帰った方がいいぜ、と言葉を添えた。
 せっかく飲もうと思ってたのになぁとおどけながら、ジャックは頭の隅で、だから血の臭いがしているのか、と頷いた。
 闘技場ではいつものことだが、街では珍しい。
 微かに感じる、まとわりつくような生臭い鉄錆の臭いに、ジャックは知らず唇の端を持ち上げていた。




「おい、あんた」
「っ…」

 暗闇にうずくまる影に近づき、ジャックは声をかける。

「あんた、この先の…」
「違うっ! 私じゃないっ!」

 ジャックが何か言うより先に声が返ってきた。
 怯えた、若い男の声だった。

「私じゃない、私は見ただけだ、あれをやったのは私じゃない」
「別に捕まえるつもりねーよ。俺ただの一般人だし」

 ステッキを肩において呆れたように言ってやると、人影の中に小さな光がジャックを見上げた。
 怯えた気配が消え、睨みつけられる。

「………じゃ、なぜ話しかけた」
「あれ、あんたがやったんだろ」
「だから、違うって…」
「こんな血の臭いさせといてなにいってんだ。それに、あんたよそもんだろ。そうだな、南フランスの…ガスコーニュか?」
「…訛りは消したつもりなんだが」
「俺は目敏いんだ。で、あんた、なんで殺した」
「………」
「1ヶ月前はアムステルダム、その前はパリで3件、ロンドンでも…5件はあんたがやったんだろ」
「…よく知ってるな」

 影が動いて立ち上がる。
 暗がりから現れたのは、黒の夜会服を身につけた端正な男だった。
 少ない明かりの中でも高級な仕立てがわかる細身の姿は、舞踏会かオペラ鑑賞の帰りのように見える。
 ジャックと背はそう変わらないだろう。
 ざっと目を走らせてみるが、服のせいもあって目立った返り血はない。
 ただ、右の袖口にだけはべったりと血がこびりついている。

「俺いま求人してんのよ。あんたみたいなのがほしいわけ」
「私のような?」

 男がいぶかるように首を傾けた。

「まぁなんだ、こんなとこじゃ話もできないしさ。来いよ。血を洗い流したいだろ」

 くい、と顎をしゃくると、男はまだ少し迷っていたようだったが、ジャックが歩き始めると少し遅れてついてきた。
 明るい通りに出ると、ジャックは男の右手をとった。
 一瞬とがめるような目を向けた男に、「見られたくないだろ?」と告げて自分の腕と体の間に隠すように手を握った。
 男はいくらか不満げな様子を残しながらも、おとなしくジャックに従った。
 定宿にしている安ホテルに入り、男をシャワーに追いやった。
 ジャックが普段から人にはいえない理由で利用するこのホテルは、余計な詮索はなにもしないのがありがたい。
 室内でなにが起ころうが…例え人が死のうが、ひとつも気にせず淡々と処理する。
 変装用に預けてある服を一式取りに行き、部屋に戻ると濡れた髪の男が腰にタオルを巻いただけの格好で立ち尽くしていた。

「…いたのか」
「こーんなとこに置いてかないさ」

 わずかにほっとしたような男をちゃかしながら扉を閉める。

「おにーさん、ほっそいねぇ。俺はもうちょっと肉付きいい方が好みよ」
「…お前の好みなんか知ったことか」

 男があからさまに顔をしかめる。
 服を手渡してやると、ふん、と鼻を鳴らしてからシャツを手に取った。

「俺さー闘技場やってんの、知ってる? 西のはずれにあるやつ」
「…ああ、話には聞いたことがある」
「でさー、こないだ一人やめちゃってさぁ。道化師探してんのよ」
「道化師?」

 シャツを羽織った男が、前のボタンを留めながらあからさまに眉をひそめた。

「私に道化師をやれと?」
「ただの道化師じゃねぇよ。試合の流れ決めたり、お客盛り上げたり、…死に損なった奴のとどめ刺したり」

 最後の言葉に男の目が光ったのを確認して、ジャックはにたりと笑った。

「気に入ったか?」
「……そうだな」
「てゆーかさぁ、そもそもおにーさん、なんで殺したの」
「殺したんじゃない、勝手に死んだんだ」
「またまたぁ、ここ俺しかいないんだしさー」
「………殺しちゃいない」

 ひとつ息をついて、男はトラウザーズを拾い上げた。

「俺が逃げたとき、奴はまだ生きてた」
「けど、何十も切りつけたんだろ?」
「ああそうだ。いい悲鳴を上げたぜ」

 にまり、と男が笑う。
 夜会服を着ていたときの取り澄ました顔ではなく、こちらが本当の顔なのだろう。

「何度も切りつけたあとの、助けてくれって懇願したときの顔なんて見せてやりたかったぜ。情けなくて惨めで…もっと虐めてやりたくなる」

 男の目に凶暴な光が宿る。
 ベッドにだらしなく寝そべりながら、ジャックは男を見上げた。

「…じゃ、知り合いじゃないのか」
「ああ。俺は非力だからな、抵抗されにくい相手を選んだだけだ」
「……おにーさんも大概クズだねぇ」
「あんたに言われたくない。人の命懸けた試合に金賭けさせてんだろ」

 吐き出すように言って、男がシャツの裾をトラウザーズにいれていく。

「ちげーねぇ」

 くくく、とジャックが笑う。

「あんたも俺も、似たもの同士だろ。人をいたぶって悲鳴上げさせんの、楽しくてならないんだろ」
「…ああ」
「だったら、俺んとこ来い。どうせこのまんまならあんた捕まるぞ」
「…いつかは捕まる覚悟はしてる」
「でも、まだまだ遊びたいだろ」

 下からジャックが見据えると、男は燃えるような目で睨みつけた。
 しばしじっと睨み合う。

「で、あんた名前は?」
「………ジャック」
「…へぇ、奇遇だな、俺もジャックだ」
「………エリックだ」
「…そうかい、俺は本名もジャックだ」

 手を差し出せば、憎々しげに睨みつけ、それでもジャックの手を取った。

「これからよろしくな、エリック」
「どうも、ジャック」
「ああ、けど、本名じゃまずいか。先任がイゴールってんだ。そのまま名乗ればいい」
「……わかった」

 頷く男の手を、ジャックはぎゅっと握った。



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