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【フランケンシュタイン】バレンタインデーのお嬢様

ジュリアお嬢様頑張る。
ルンゲ振り回される。
たまにアンリとかヴィクターも。
ちょっとしか出てこないくせにアンリがたらし。


 ※これはアンリが死ななかった時間軸です。


 もうすぐ2月14日。
 その日は世の乙女たちがウキウキキャッキャし、男子たちがソワソワする日。
 そう、バレンタインデーだ。
 坊ちゃん一筋すぎるルンゲは、自分はそんなイベントとは縁遠いと思っていた。
 ところが。

「ルンゲ、お願い、ヴィクターにチョコをあげたいの」
「では買い物に…」
「いいえ、手作りよ」

 坊ちゃんの未来の花嫁、ジュリアお嬢様にそう言われて、ルンゲはわかりましたお手伝いしましょうと胸を張った。

「ジュリアお嬢様、チョコを作るのは初めてですか?」
「ええ、というかお菓子づくり自体、あなたと昔作ったクッキー以来よ」
「……そうでしたか」

 女子ならお菓子の一つも、と思われるかもしれないがそこは貴族のご令嬢。
 自ら働くなどということは皆無なのだ。

「でもせっかくヴィクターが戻ってきたんだし…手作りって殿方は嬉しいんでしょう?」
「そりゃぁ坊ちゃんは喜ばれますよ」

 にこにことして応える。
 これで主人が喜んでくれると思えば、手伝いにも熱が入る。

「ではまず、チョコを刻みましょう」

 大理石の台の上でクーベルチュールチョコを広げる。
 ちなみにチョコを送る風習は昭和に始まったものだとか、そもそもこの時代に固形のチョコはまだ存在しないとか、そういうつっこみはしてはならない。
 そのへんはお約束というやつである。

「このくらい?」
「ええ、そうですね……ちょっと、細かすぎるので、もう少し大きくてもいいですよ…」

 熱心に刻みすぎてほとんど粉になっている。
 ビターチョコを使っているので、純ココアとそう変わらないものになってしまっている。

「で、では、それの半分をこの温めた生クリームにいれて、よく溶かしてください」
「わかったわ」

 お嬢様が刻んでいる間に温めておいた生クリームを差し出すと、頷いたジュリアがざらざらとチョコを投入していった。

「ああ、そんなに勢いよく入れたら跳ねて…」
「あつっ!」
「ほら、お嬢様、火傷してしまいますよ」

 慌てて水をくみ、その中に手を入れさせる。

「お菓子づくりがこんなに危険だとは思わなかったわ…」
「普通は危険じゃないです」

 しばらく水に浸けてから手を布で拭う。
 少し赤くなってはいるが、跡は残らないだろう。
 貴婦人の手に傷を残したらとんでもないことになるところだった、とルンゲはほっとする。

「ではこちらは私がやっておきますから、お嬢様は湯煎をお願いします」
「どうするの?」
「チョコをお湯で溶かすんです。お湯はそこの鍋に」
「わかったわ」

 頷いた令嬢が、チョコをボウルに入れて鍋に向かう。

「あ、お湯をもう一つのボウルに移して…ってお嬢様!!!」

 ボウルのチョコをそのまま鍋に投入しようとするお嬢様を慌てて引き留めた。

「…お湯で溶かすんでしょう?」
「そうですけど、直接お湯に入れては…あの、お嬢様、ブランデーをとってきていただけますか?」
「ええいいわ」

 ぱたぱたと軽快な足音をたてて厨房を出ていくお嬢様の後ろ姿を見送って、ルンゲはほっと息をついた。
 そういえば、20年前に一緒にクッキーづくりをしたときもなかなか大変でした…といまさらながら思い出す。
 作り慣れていないから、手順や約束ごとを知らないのだということはわかるが、それにしても心臓に悪い。
 生クリームに入れたチョコを手早く練り上げ、湯煎でチョコを溶かしていく。
 湯煎の温度計を確認しながら溶かし、大理石の上でテンパリングをしていると、さきほどとは違う足音がした。

「何してるんだ?」
「ああ、アンリ様」

 甘い匂いに惹かれたのか、顔をのぞかせたのはルンゲの主人の親友だった。
 すぐ近くまで来て手元を覗き込む。

「もうすぐバレンタインデーなので、チョコを」
「そうか、そういえばそんな行事もあったね」
「よければアンリ様も召し上がりますか?」
「君がくれるのか? 楽しみだな」

 ちゅ、とルンゲのこめかみにキスして、アンリは去っていった。

「……あれ、もしかして誤解されてしまいました? チョコを差し上げるのは私じゃなくてジュリアお嬢様なんですが…」

 テンパリングに集中していたルンゲは、しばらくしてからふと手を止めて呟いた。
 けれどまぁ、誤解は後で解いておけばいいか、と作業に戻る。

「ルンゲ、これでいい?」

 ほどなくしてまた軽い足音がして、お嬢様が戻ってきた。

「ありがとうございます。それではそのブランデーを、少しだけ、このボウルに入れてください」
「ええ。このくらい?」
「あともう少し」
「…これでいい?」
「ええ、いいですよ。それではそちらのヘラでブランデーを混ぜ込んだ後、塊にしてください。私はこちらが手を離せませんので」
「わかったわ」

 勢い込んで頷いたお嬢様が、用意してあったヘラを手にする。

「軽く混ぜる程度でいいですからね」

 はらはらしながら見守りつつ、自分も手は止めない。

「大丈夫よ」

 懸命に混ぜる様子を少しの間観察して、それからルンゲはほどよくとろけたチョコをボウルに戻した。

「私も手伝います」
「この後どうするの?」
「このくらいの」

 と、スプーンで一匙分掬う。

「小さな塊に丸めていきます。それができたら、このチョコにくぐらせてコーティングします。あとは冷やせば出来上がりですよ」
「わかったわ」

 仕上げなら、そう難しいこともないだろう、とルンゲが横で見ていると、丸める作業に手間取っているらしい。

「ルンゲ、すぐに柔らかくなっちゃうわ」
「もっと手早くしませんと……」
「手がべたべた…」
「こうです、お嬢様」

 手のひらの熱で溶けたチョコが、お嬢様の手を汚す。
 急いでスプーンで別なものをすくい、素早く丸めて並べて見せる。

「…上手ねぇ」
「お料理は慣れてますから」

 気づけば、ジュリアは感心したようにルンげの手元を眺め、すべてのチョコをルンゲが丸め終わってしまった。

「…では、チョコがけをなさいますか?」
「どうするの?」
「こうしてフォークに乗せて、くぐらせるんですよ」
「やってみるわ」

 ジュリアが持ったフォークにチョコの塊を一つ乗せて促す。
 緊張した面持ちでボウルに沈めようとして、ころりと落ちた。

「ああっ」
「落ち着いて、お嬢様。すぐにすくいあげれば大丈夫ですから」
「だめ、ルンゲ、どこかにいってしまったわ」

 お嬢様が悲しげに眉を寄せる。

「大丈夫です、ほら、見つかりましたよ」

 急いで別なフォークで探し出す。

「こうするんですよ」

 もう一つを実際にやって見せる。

「…難しいわ」
「なるべく素早くくぐらせるんですよ」

 ルンゲも何度もやってみせる。
 カツレツなどの衣をつける要領でチョコにくぐらせていくが、ジュリアにはどうしても難しいようだった。
 結局、ちゃんと形になったのはルンゲが作ったものが大半だった。

「…大丈夫です、半分はお嬢様がつくりましたから」

 泣きそうな顔をしているお嬢様を慰める。

「あとは冷やして固めましょう。氷室へ運んでおきますから」
「私がやるわ」
「…わかりました。ではお願いします」

 ようやく完成だと、ルンゲはほっと息をついた。


 そしてバレンタインデー当日。
 頬を赤く染めながら、可愛らしくラッピングした箱をジュリアがヴィクターに差し出した。

「…これ、よかったら…」
「ぁ…ありがとう。……手作り?」
「ぇ、ええ…」

 互いに照れ合う若いご主人様たちの姿に、ルンゲはにこにことしながらコーヒーを淹れてた。

「坊ちゃん、せっかくですから今召し上がりますか?」
「ああ、そうする」

 主人から箱を受け取り、用意しておいた皿に並べる。
 一番見栄えのいい数個を選んだだけあって、店頭で売られているものとも遜色ない。
 ちょっと緊張した面もちで、ヴィクターが一つを摘み、口に入れる。
 それを、もっと緊張してジュリアが見守る。

「……どう?」
「…うん、美味しい。これ、ルンゲが作ったんだな」
「…!」

 よかった、とルンゲが微笑んでいたのもつかの間、デリカシーのない発言に思わず短く嘆息する。
 指摘されたジュリアの方は、可哀想なくらい真っ赤になっている。

「あ、あの、坊ちゃん、レシピは私のレシピですけど、作ったのはジュリアお嬢様ですから…」

 慌ててとりなすも後の祭り。

「ヴィクターなんか知らない!」

 と、走り去ってしまった。

「……行ったな」
「じゃないですよ、坊ちゃん! 追いかけませんと!」
「今行っても機嫌を損ねるだけだ」
「…そうですか?」
「お前より女の扱いは慣れてる」
「……その割には、怒らせてますけど」

 ルンゲに言われて、主人は気まずそうにコーヒーをすすった。

「それにしても、私がつくったとよくわかりましたね」
「当たり前だ。美味かったからな」
「…え」
「勘違いするなよ。ジュリアは料理なんかしたことない。ひどい味だろうと覚悟してたら、いつも通りの味だった。お前がつくったとわかって当然だろう」
「…それ、ジュリアお嬢様におっしゃってはいけませんよ」
「わかってる」

 コーヒーを飲み干し、主人が立ち上がる。

「で、ルンゲ、お前からは?」
「……ありませんよ、毎年別にやってないでしょう」
「…アンリが、お前からもらえると喜んでたのに」
「あれは…アンリ様が勘違いされてるんですよ。私からではなくてジュリアお嬢様からです」
「……ジュリアから」
「あ、別に特別なあれではなくてですね、ステファン様にも差し上げるでしょうし」

 不機嫌そうな顔をする主人に慌てて弁明する。

「……ふーん」
「あの、坊ちゃん…ジュリアお嬢様を追われたほうが」
「…わかってる」

 じろり、とルンゲを睨んで、主人は恋人を追って走っていった。
 残されたルンげは首を傾げた。

「…坊ちゃん、そんなに甘いものお好きでしたっけ?」

 今から何かを用意したほうがいいのかしら、と考えながら、ティーセットを片づけていった。

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